象嵌とは?世界の様々な象嵌の伝統工芸をご紹介

象嵌とは?世界の様々な象嵌の伝統工芸をご紹介

象嵌(ぞうがん)とは、素材に穴や溝を彫って異素材をはめ込んで模様を作り出す装飾技法で、世界中に広く存在します。
英語ではinlay(インレイ)といいます。

ちなみに、種類の異なる木材を組み合わせて作られる「寄木細工」とは完成時の見た目は似ていますが、制作工程が大きく異なるため、寄木細工とは異なるものとされます。

この記事では、世界にたくさんある象嵌の中のいくつかをご紹介します。

 

■ 日本の象嵌

 

螺鈿(らでん) -貝殻を使用した象嵌

 


螺鈿は、夜光貝やアワビの殻を薄く加工し、漆器や木などにはめ込んで装飾する技法です。
角度によって色が変わるため、揺らぎのある光が魅力です。

●大まかな制作工程(漆器に装飾する場合)

  1. 貝を薄く加工し、文様の形に切り抜く
  2. 漆器に溝を彫る
  3. 貝の裏に漆を塗って溝にはめ込む
  4. 貝の上から全体に漆を薄く塗り、研ぎ出して仕上げる


日本以外にも、漆を使った螺鈿の技術は中国をはじめとする東アジアでも発展してきました。
その中でも、金粉を撒いて装飾する「蒔絵」と「螺鈿」を組み合わせて作られたものは日本独自に発展したものです。

 

金属象嵌 - 刀装具が精密さを育んだ象嵌

 

金属象嵌は、鉄・銅などの地金に金・銀をはめ込み、装飾する技術です。
日本では特に刀装具の美意識とともに発達し、その精密さは世界的にも高く評価されています。

大まかな制作工程

  1. 地金に文様の溝を彫る
  2. 金・銀の板や線を溝に置く
  3. 金槌で叩いて密着させる
  4. 表面を磨いて仕上げる


    *イラストは平象嵌の工程のもの

加賀象嵌、京象嵌、肥後象嵌など様々な流派が存在します。
また、技法も多様で布目象嵌、平象嵌、高肉象嵌などが存在します。

 

世界の象嵌

 

 

イタリア:ピエトレ・ドゥーレ(Pietre Dure)

ピエトレ・ドゥーレ(Pietre Dure)は、16世紀以降のイタリア・フィレンツェを中心に発展した硬石象嵌の技法です。
ラピスラズリやマラカイト、ジャスパーなどの天然石を薄く切り、絵画のように組み合わせて風景や花、静物を表現します。
石の色や模様そのものを絵筆の代わりとするため、「石の絵画」とも称されました。
宮廷家具や装飾パネルとして王侯貴族に愛され、素材の持つ永続性と絵画的表現を融合させた、ヨーロッパ象嵌を代表する技法です。

 

ヨーロッパ:タルシア(Tarsia)

タルシア(Tarsia)、またはインタルシア(Intarsia)は、主にヨーロッパで発展した木工による象嵌技法で、異なる種類の木材を切り出し、寄せ合わせて絵画的な文様や風景を表現するのが特徴です。
色や木目の異なる木を巧みに使い分けることで、陰影や遠近感まで描き出し、まるで木で描いた絵画のような完成度を持ちます。
ルネサンス期のイタリアでは修道院や宮殿の家具装飾として広く用いられ発展しました。
塗装や彩色に頼らず、素材そのものの表情を生かす点に、ヨーロッパ木工文化の美意識が色濃く表れています。

 

中国:フィリグリー象嵌(花絲鑲嵌)


中国の伝統金工技法であるフィリグリー象嵌(花絲鑲嵌)は、細く延ばした金や銀の線を撚り合わせ、編み、幾何学や植物文様を形作り、そこに宝石・玉・琺瑯などを象嵌する高度な装飾技法です。
戦国〜漢代の金工技術を基礎に発展し、唐・明・清の宮廷文化の中で高度に洗練された金工技法です。

極細の金線を用いることで非常に軽やかで繊細な造形が可能となり、冠飾り、仏具、装飾箱、女性の髪飾りなど、王侯貴族が身につける品々に多く用いられました。金線の透かし文様と、象嵌された宝石の色彩が重なることで、華麗でありながらも気品ある雰囲気をまといます。

現代では中国非物質文化遺産にも登録され、宝飾芸術として世界的に紹介される技法です。

 

インド:パーチン・カリ(Parchin Kari) 


 

パーチン・カリ(Parchin Kari)は、インドで発展した大理石象嵌の技法で、白大理石に宝石や色石をはめ込み、花文様や植物文様を描き出します。
最も有名な例がタージ・マハルの装飾で、ムガル帝国時代にペルシャ文化の影響を受けながら洗練されました。
石を精密に切り出し、隙間なく埋め込むため、高度な技術と膨大な手間を要します。
建築装飾として用いられる点が特徴で、日本の工芸的象嵌とは対照的な、壮麗でスケールの大きな美を備えています。


まとめ

象嵌は、素材の組み合わせと職人の緻密な手仕事によって生まれる、世界共通の装飾技法です。
同じ象嵌でありながら、日本の螺鈿や金属象嵌の繊細な輝き、イタリアのピエトレ・デューレの絵画的表現、中国の花絲鑲嵌の華やかな金工、インド大理石象嵌の壮大なスケールなど、その姿は地域ごとに大きく異なります。

技法が違えば、作品がまとう空気もまったく違ったものになります。
こうした象嵌の多様性に触れることで、各地の文化や美意識の豊かさをより深く知ることができます。

ぜひ、日本と世界の象嵌の魅力を比較しながら、お気に入りの技法や作品を探してみてください。
伝統と素材が織りなす象嵌の美しさは、時代や国を超えて、今もなお私たちを魅了し続けています。

 

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